モノ作りにおいて欠かせないのが材料技術。製品の高機能化・高付加価値化は当然のこと、事業のグローバル化や生産プロセスの効率化の観点でも重要な役割を担う。自動車産業においても同様であり、事業を支える材料技術について第59回自動車技術会賞の中から本田技研工業の取り組みを紹介する。
世界展開を進める自動車メーカーにとって不可欠なのが、魅力ある新車開発とともにグローバル生産体制の構築だ。とくに部品・部材の現地調達については、製品コストの削減や各国政府の産業振興政策を背景に事業戦略上の重要課題となっている。だが、各地域において必ずしも日本と同じように各種産業が発展してきているとは限らず、「鉄系材料の現地調達化は難しい」(第6技術開発室 高田健太郎研究員)のが実情。鍛造品についてみると日本および欧州では溶製鋼を原料とした熱間鍛造が主流だが、米国では粉末合金を原料とした粉末鍛造が一般的に採用されている。
焼結鍛造コネクティングロッドの疲労強度向上技術は、「破断分割による材料の高強度化が進む熱間鍛造品に対応するため」(同)に開発したもの。北米で製造するV6エンジンには焼結鍛造製のコネクティングロッドが採用されており、日欧で採用している熱間鍛造品との間に強度差があると同一エンジンのコンロッドを同一重量で設計できず、生産拠点に応じたフレキシブルな対応が不可能となるためだ。
開発上の最大の課題は、被削性と疲労強度という相反した特性の両立。材料硬度を上げればそれに比例して疲労強度も向上するが、硬度上昇は被削性を損ねるため部品の生産性を低下させてしまう。同社では、炭素および銅の材料特性に対する影響に着目し、材料組成のコントロールによりこの課題を解決した。
具体的には、炭素の低減により硬度上昇の要因となるパーライト組織の生成を抑制すると同時に、銅増量によるフェライト組織の固溶強化で加工性を維持しながら疲労強度だけを3割向上することを実現。とくに炭素の低減は鍛造により生じる空孔率の低減および微細化に効果があり、「コネクティングロッドで10%、クランクのコンパクト化などにより全体で数百グラムの軽量化が可能」(同)としている。
量産化に当たっては原料粉末の開発を神戸製鋼所と共同で実施する一方、焼結鍛造を米メタルダイン社、マシニング加工以降を同社北米拠点で行う生産体制を構築し、08年モデルのUSアコードから採用を開始。同コネクティングロッドを搭載したV6エンジンでは、素材の特性向上を軽量化ではなく高出力化に活用しており、エンジン出力を従来の250馬力から280馬力へと出力アップを図っている。
量産開始以降、焼結鍛造コネクティングロッドを使用する北米生産機種で順次採用を拡大しているが、他の部品などへ展開する可能性については「コネクティングロッド以外は考えていない」(同)。その意味で同社エンジンの世界同一品質を実現するためだけに開発された技術といえよう。

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