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ナノ材料の適切なリスク対策を望む
ナノテクノロジーは情報通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなど広範な分野でイノベーションを引き起こす次世代基盤技術として注目されている。世界各国で競争が繰り広げられているが、超微小物質であるナノ材料は、一般の化学物質と同じ基準で健康被害や生態影響を判断できないのではないかという指摘もある。ナノ材料によるイノベーションを加速するためにも、研究開発と並行して科学的知見に基づく適切なリスク対策が求められる。
ナノ材料の安全対策は、既存規制の枠組みを利用して始まっており、先行してナノ材料含有製品の表示義務が広がっている。さらに米国ではTSCA(有害物質規制法)に定める新規化学物質とみなした。EUではREACH(欧州化学品規制)やRoHS(電気・電子機器の有害物質使用制限)指令でナノ材料の扱いが検討されている。
日本では厚生労働省を中心に労働災害予防を目的にガイドラインが提示された。多層カーボンナノチューブ(CNT)のがん原生試験も実施している。安全性評価手法の開発では、経済産業省が「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」に着手、簡易な有害性試験法の確立に取り組んでいる。
一般の工業用化学物質は分子式で規定される。これに対して、ナノ材料は物理的特性の変更、修飾など化学的特性を変化させることで無限にバリエーションが広がるため、法規制の観点からは何をもって同一物質を見なすという判断基準が必要になる。米環境保護庁は「異なる製造業者やプロセスによって製造されたCNTは、異なる化学物質」として、それぞれのCNTにラットを用いた90日間の吸入ばく露実験を要求している。
ナノ材料のばく露情報や安全性の科学的知見は整備されつつあるが、技術革新が激しい分野だけに使用実態やライフサイクルに関する情報は不明な点も多いようだ。これらの情報や知見が整備されない限り、ナノ材料事業化は慎重であるべきという意見も存在する。
一方で、ナノ材料を巡る技術開発は加速しており、近い将来大きなイノベーションを生み出すだろう。そして経済成長や豊かな生活に貢献するという便益が見込める。安全性に関する知見が整備されないと事業化は認めないということになれば、ナノ材料研究が中断して、製品化が先送りされかねない。規制に関しては政府や公的研究機関が担う役割は大きいが、ナノ材料を手掛ける開発企業による自主管理が両輪になってリスク対策を講じるべきだ。健全な産業展開に不可欠な視点である。