化学が産学連携人材育成のモデルを
昨年4月に経済産業省が策定した「化学ビジョン」に基づいて具体化した大学院化学系博士課程学生に対する奨学金給付を含む「化学人材育成プログラム」が動き出した。化学産業の競争力の源泉である技術開発力強化には基礎研究まで遡及した人材育成が不可欠として、化学企業37社が参加した。化学産業は前向きに産学連携を進めてきたが、あくまで共同研究などが中心で、将来の産業イノベーションを担う高度人材を育成する大学院に着目した産学協力は初めての取り組みだ。新しい挑戦だけに戸惑いもあるようだが、着実な成果を期待したい。
化学人材育成プログラムは日本化学工業協会(日化協)が事務局になり、東京工業大学大学院物質科学専攻、大阪大学大学院応用化学専攻など支援対象先専攻を選定した。基礎・応用研究と並行して、リーダーシップやコミュニケーション能力に優れた人材、グローバルな人材育成などで化学産業が必要とする博士課程の教育カリキュラムを進めていると評価した。さらに支援対象専攻のなかで、とりわけ優れた博士課程後期に進む学生に奨学金を支給する。
日化協は化学人材育成プログラム関係者によるシンポジウムを、東京と大阪で開催した。東京会場であいさつした藤吉建二会長は「産学連携は長年議論してきたが、このプログラムを契機に実行可能なテーマから踏み出したい」と述べた。逆にみると、産学の意思疎通に溝や障害が多く、ミスマッチを起こしていることを物語っている。
産業界は大学の教育や研究に疑問を感じているものの、大学に遠慮して発言を控えてきた。一方、大学側は優秀な博士課程の学生の採用に消極的で、修士を採用して、後は自社の研究所で人材を育てるという企業の姿勢に不満を感じている。このミスマッチを人材育成プログラムによって改善してほしいが、産業界がカリキュラムの内容にどこまで踏み込んで情報発信するかという点など、産学とも試行錯誤が続きそうだ。
人材育成プログラムに参加する企業の足並みも一致しているわけではない。「協力しても、(奨学金支給の対象になる)優秀な学生は大手化学企業に就職しがちで中堅に恩恵は期待しにくい」というのは代表的不満だ。中堅企業も含め見返りが可能な仕組みも必要になろう。
文部科学省は7月に「産学協働人財育成円卓会議」を設立した。従来の産学連携の枠を超えた対話を行い、イノベーション人材の養成と活躍の好循環を実現する。そして日本社会の成長・質的転換モデルを見いだすことが狙いだ。その先行事例としての役割りを化学に望みたい。