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2012年11月16日 前へ 前へ次へ 次へ

高精度の化学物質リスク評価手法を

 化学物質の製造・使用・廃棄のライフサイクルにおけるリスク軽減の取り組みが進んでいる。ただ、リスクを最小化するため代替物質に切り替えることで、別のリスクが発生、以前の物質よりも健康被害や環境負荷を広げた事例も多い。化学物質を適正に管理するには、科学的・定量的に比較できる指標が必要だ。このようなニーズに対応して、産業技術総合研究所(産総研)安全科学研究部門は、2007年から6年間をかけて「リスクトレードオフ解析手法」の開発研究を進めてきた。
 開発は、国際的にリスクの大きな化学物質とされてきたトリクロロエチレンなどの工業用洗浄剤、塗料などに使用される有機溶剤、電気製品に使われてきた鉛系ハンダや臭素系難燃剤などを対象に行った。これらの化学物質はリスクがあるが、安易に代替物質に切り替えると、新たなリスクが発生するというトレードオフの関係にある。
 例えば安全性の視点から臭素系難燃剤を代替することで、難燃性能が低下して製品の火災事故が発生しやすくなるという問題がある。鉛フリーハンダへの代替では、物性の低下に加えコストアップにつながるというトレードオフもある。
 化学物質を製造、使用する産業界は、規制当局がデータの未整備のまま予防的措置を過度に導入することに不満も強い。産総研の研究は、化学物質の適正管理を前進させるだろう。
 ただリスクトレードオフを評価する際に、仮定や推定に依存せざるを得ないという課題は残る。行政では推定データが多いと、信頼性の高いリスク評価につながらないという。グローバルに事業を展開する産業界は、規制当局が実測データを要求する以上、製造や輸入申請を行う際には新たなデータ収集が必要になり、産総研の手法の導入は限定的になると指摘する。
 産総研には行政や産業界、さらには市民団体のニーズに対応してリスクトレードオフ研究の精度向上を望みたい。既存物質と代替物質の比較評価に始まった研究は、物質転換に伴う経済性、製品安全、防災、エネルギーや地球温暖化とのトレードオフ関係の評価にも定着させたい。また化学物質のみならず消費者製品にも対象を広げるほか、工場で事故が発生した場合の大気などへの拡散モデルの策定などにも取り組む方針である。
 並行してリスクトレードオフの手法を国際的なスタンダードとして普及させる取り組みも必要ではないか。化学物質規制の国際調和が進行するなかで、欧州など海外に主導権を握られているケースが多い。優れた評価手法を国際標準にする活動も期待したい。


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