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2012年10月29日 前へ 前へ次へ 次へ

【連載】バイオ医薬品 日本企業の存在感高まる(上下)

体制整備進める製薬各社開発力基盤に裾野広がる
 欧米や韓国の後塵を拝してきたバイオ医薬品製造で日本企業の競争力が急速に高まっている。バイオ医薬の成長株「抗体医薬」の開発活発化を受け、商業展開をにらむ国内製薬各社が生産投資を加速。製薬会社による外注増加を見越し製造受託会社も投資意欲を強める。抗体生産に欠かせない素材を提供する化学企業も台頭し、研究開発や海外産抗体医薬の販売にとどまっていた日本のバイオ医薬分野は産業の根幹である「製造」にも裾野が広がり始めた。
(三枝寿一)

※欧米先行、追う韓国※
 抗体医薬で先行するのはスイス・ロシュや、その傘下の米ジェネンテック、米ジョンソン・エンド・ジョンソンなど欧米製薬大手。バイオ医薬の製造機能を自社に備える一方、研究開発投資を厚くするため製造の外部委託も行う。製造受託で頭角を表したロンザやベーリンガーインゲルハイムなどの欧米勢は、動物細胞や微生物細胞を用いた大規模な培養設備を構え、世界の需要を一手に引き受けてきた。
 そこに割って入ろうとしているのが韓国勢。抗体医薬の一部は2015年前後に特許が満了する。例えば抗リウマチ薬「レミケード」は世界で1兆円近くを売り上げる。特許満了後にはジェネリック医薬品にあたるバイオシミラーを発売できるため、製薬各社の垂涎の的となっている。韓国政府は「バイオシミラーグローバル輸出産業化戦略」を掲げ、産業育成策を強力に推進。同国最大手のセルトリオンは来年には欧米の製造受託企業と肩を並べる生産能力に達するとみられている。

※エーザイは米で生産※
 エーザイが抗体医薬ベンチャーの米モルフォテックを買収したのは07年。米社が保有する抗体医薬の開発を推し進め、今夏ようやく臨床試験用抗体医薬の製造設備を米国に立ち上げるにいたった。複数の抗体を並行生産でき、多くの開発案件を同時に臨床試験する。設備は今年中に稼働し、来年上半期には実生産を始める予定だ。
 武田薬品工業は昨年、山口県に構える主力工場に抗体医薬の原薬棟を完成させた。エーザイと同様に臨床試験用抗体医薬を製造する。すでに国産抗体医薬の商品化に成功している中外製薬と協和発酵キリンは国内に量産工場を整備。協和キリンは抗体医薬の開発案件増加に対応するため、高崎工場(群馬県)に国内最大級の培養槽を設置し、一段の増産体制を敷くことを決めた。

※まだ受託市場の2%※
 日本企業が韓国勢と異なるのは、新薬の研究開発を起点としてバイオ医薬産業が底上げされてきたことだ。研究開発から事業基盤を構築しており、製薬会社だけでなくあらゆる企業が事業に関与し、その1つとして製造ノウハウが積み上がってきた。
 世界のバイオ医薬の製造受託市場は2700億円と推定されるが、日本はその2%程度しかない。ただ、国内製薬よる抗体医薬の開発進行、低分子医薬の10倍にものぼる商業設備投資、バイオシミラーの勃興など、国内の製造受託市場の醸成に必要な材料は出揃いつつある。そこに化学各社がなだれを打つように参入し始めた。
【写真説明】協和発酵キリンが高崎工場に構える抗体医薬の製造設備。国内有数の生産能力を誇る

続き

化学企業が相次ぎ参入 開発進み受託需要が拡大

※外注が強まる傾向※
 製薬会社は新薬の創製に苦戦している。治療薬が開発しやすい疾患は枯渇し、がんやアルツハイマーなど開発難易度の高い難病しか残されていない。各規制当局は薬に対する安全性重視の姿勢を強め、大規模臨床試験で詳細に薬効を把握する必要性も出てきた。世界経済の停滞は政府の医療費抑制策を加速させ、「トリレンマの状況」(武田薬品工業の長谷川閑史社長)にある。製薬会社は最先端の新薬開発に照準を合わせなければならず、研究開発投資は膨らむ一方の状況にある。
 こうした背景から製薬会社は医薬品製造の外注を活発化し、臨床試験に経営資源を振り向ける。抗体医薬は稼ぎ頭になるものの、設備投資は膨大になるため製造委託の傾向が強くなっている。一方で複雑な構造をしている抗体医薬の製造委託はいったん決まれば変更されるケースは少なく、新規参入組は先行企業を攻めあぐねている状況にあった。

※買収で事業基盤構築※
 ただ、ここにきて国内製薬や国内外ベンチャーの抗体新薬開発が進展し、じわりじわりと新たな受託市場が生まれてきている。製造受託で国内最大手の東洋紡は受託を手掛ける抗体医薬やワクチン、バイオシミラーの開発段階が上がり需要拡大が見込まれるという。数年後には100億円規模の投資に乗り出して培養設備を倍増設する方針だ。
 ベルギー企業を買収してバイオ医薬製造受託に参入したカネカは、今年に入ってから米国向けの商用生産を開始している。実用化間近の受託案件を抱えているほか、ベルギー政府向けの案件も獲得し、今後、さらなる量産設備を設置する検討を始めた。富士フイルムは米製薬メルクからバイオ医薬製造2社を買収。富士は傘下に抗体医薬ベンチャーを抱えており、将来の自社品製造に布石を打ったかたちだ。
 三菱ガス化学も本格参入を目論んでいる。同社は新潟研究所内に抗体医薬の製造プロセス開発や前臨床試験向け供給を請け負う設備を来年初に稼働させ受託事業をスタートさせる。将来的には抗体医薬の商用生産も手掛ける方針だ。微生物培養で国内最大手の旭硝子も、医薬品分野での製造受託で攻勢を強める構えだ。

※ワクチン設備を活用※
 新規参入ながら圧倒的な生産能力を構えようとしているのがUMNファーマ。同社は開発中の細胞培養インフルエンザワクチンを量産する新工場をIHIと組んで岐阜県内に建設中だ。培養槽の規模は合計4万22000リットルと国内最大級となり、数年後には倍増設する意向を打ち出している。1年のうち半年程度をワクチン製造に振り向け、空いた期間でバイオ医薬の製造を請け負うという。
 このほかカネカとJSRライフサイエンスは、抗体医薬の精製に必須の材料の「プロテインA担体」市場に今秋参入した。プロテインAはGEヘルスケアの独占市場にあり、製造委託先を変えない製薬会社の方針もあって参入は困難だった。カネカとJSRは既存品よりも生産効率を高められる差別化商品を投入、拡大が見込めるバイオ医薬製造分野で商機を捉えたい考えだ。
【写真説明】カネカはベルギーのユーロジェンテックを買収し、バイオ医薬製造に参入した


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