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2012年07月18日 前へ 前へ次へ 次へ

【連載】心臓再生に挑む(中)幹細胞を培養し直接移植

京都府立医科大学 世界初 心臓への幹細胞治療
 骨格筋の筋芽細胞には幹細胞のような性質があることから、欧米を中心に骨格筋芽細胞を使った心筋再生治療の研究が積極的に進められてきた。もし心臓自体に心筋に分化する能力を持つ幹細胞があるのであれば、それを培養して移植するのが心臓再生にとって最も良い方法ではないだろうか。患者の心臓にある幹細胞そのものを採ってきて増やしてから移植する治療が国内で始まっている。京都府立医科大学循環器内科の松原弘明教授らの研究グループの自家心筋細胞とbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を使ったハイブリッド心筋再生治療だ。心臓への幹細胞治療は世界で初めてという。

 従来は再生しない臓器だと思われてきた心臓も、最近になって心臓の細胞の中に心筋となる幹細胞がわずかであるが含まれていることが分かってきた。重症心不全患者の心筋幹細胞を取り出して培養し、外科手術時に増殖させておいた幹細胞を心筋に直接注射して移植する治療が、2010年から京都府立医科大学と国立循環器病センターで臨床研究として開始されている。
 同治療の適用は冠動脈バイバス手術だけでは心機能が良くならない重症心不全患者。冠動脈が動脈硬化で高度に狭くなり心筋が酸欠状態になって障害を受け、収縮が悪くなった虚血性心筋症の患者が対象という。
【写真説明】 「左・心筋幹細胞 右・これを患者に注射する」

※生体吸収性シートを乗せて定着※
 バイバス手術前に患者の足の静脈からカテーテルを挿入し、心臓の右室中隔にある心筋組織を生検によって採取し分離、培養する。心筋生検の2〜3ミリグラムのサンプルから心筋幹細胞を100万倍にする培養技術を開発した。これを手術時に注射で心筋に直接移植する。幹細胞を定着させるために、生体吸収性ゼラチンシートを乗せる。シートにはbFGFをつけてあり、約14日間かけてbFGFを徐々に放出しながら溶けていくという。
 bFGFは血管新生因子であるため、心筋に幹細胞を注射した際に血管新生を促して生着率を高めてくれる。bFGFは心筋幹細胞の特異的な増殖因子であるため同時に心筋幹細胞の増殖も促すという。
 注射によって心筋幹細胞をそのまま心臓の虚血部分に移植しても、ほとんどなくなる可能性が大きい。ゼラチンシートを移植後に貼り付けることで、幹細胞の残存率を移植1カ月後で約6割、4カ月後で約4割まで高めることに成功した。

※バイパス手術単独に比べ効果的※
 現在、同2施設で安全性と臨床効果を評価する第1相試験が進行中。目標症例数6例すべての治療が終了しているが、心血管事故を含めた有害事象は報告されていない。手術前の心臓の左室駆動率も22%から術後6カ月後には33%まで回復するなど、バイバス手術単独治療に比べて優れた治療効果を証明した。すでに患者は社会生活に復帰しているという。今後は全40症例の多施設共同の第2相試験を予定している。国の先進医療制度にも申請し、標準治療にすることを目指している。
 また、同治療は心臓移植の代替治療になることも視野に入れており、15歳未満の補助人工心臓を必要としている小児患者や、移植が適応外である60歳以上の末期心不全患者での臨床研究も実施する計画だ。


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