わが国初の放射能標準物質の意義
日本分析化学会が、わが国独自の土壌放射能標準物質を初めて作製した。これまで多くの分析機関では放射能測定を行う際、日本アイソトープ協会頒布の校正用体積標準線源を基準にしたり、国際原子力機関(IAEA)作製の放射能標準物質などを利用してきた。一方、これらは昨年の原発事故を受けて供給が追い付かないほか、測定比較する際の信頼性を高める必要があった。独自の標準物質を作製したことで信頼性向上につながり、ひいては風評被害に喘ぐ被災地域が活性化する一助になることを期待したい。
日本分析化学会は分析化学関連において世界最大級の学会。東京電力福島原子力発電所の事故に関連して、放射線・放射性物質に関する問い合わせも多く、これに対応するかたちでホームページ上での情報提供や特別講演会の開催などを行ってきた。昨年の震災直後に緊急設置した震災対応ワーキンググループと、標準物質委員会との共同プロジェクトとして放射能標準物質作製委員会を発足。放射能測定の信頼性確保のための認証標準物質作製に取り組んだ。
放射能を正確に測定するには、測定する対象物質と類似する化学組成をもち、かつ計量トレーサビリティがとれた認証標準物質との測定比較により求める必要がある。さらに放射能標準物質の円滑な供給などを考慮し、独自の土壌放射能標準物質の作製にいたった。
放射能測定用の対象物質として、東日本に広く飛散した放射性物質に汚染した土壌を採取し、さまざまな手順を踏んで標準物質候補試料とした。放射能濃度の認証値は国内の12分析機関(東京都市大学工学部、京都大学原子炉実験所、高エネルギー加速器研究開発機構放射線科学センター、日本アイソトープ協会、産業技術総合研究所、日本原子力研究開発機関、エヌエス環境、環境総合テクノスなど)の共同分析により決定しており、土壌放射能に関して日本アイソトープ協会とも連携をとったかたちとなった。標準物質は6月上旬から頒布されている。
東北地方、とくに福島県内に工場を持つ化学企業は、原発事故に絡む風評被害が業績に大きく影響したところも多い。とくに医薬品や食品関連の原材料を生産する工場の影響は大きく、海外顧客向けの出荷も落ち込んだという。
分析という幅広い分野に関わる同学会が、放射能関連においてもいち早い行動をとったことは評価される。わが国初の土壌放射能標準物質の作製で放射能測定の信頼性が高まり、かつ迅速な供給が図られることで、一刻も早い風評被害の解消につながることを望みたい。