JSTが提言した安全と科学技術
東日本大震災、福島第1原発事故は、科学技術者に対しても大きな衝撃を与えた。未曽有の事態にしても、的確に対応できなかったことへの反省、その分析に基づいて、科学技術振興機構(JST)は、「日本社会の安全保障と科学技術」を提言した。現代社会は金融システムの破たん、テロや戦争なども含めて多くのリスクに直面しているが、今回の提言は巨大地震・津波、感染症、資源制約や食糧危機など自然科学の果たすべき役割の大きいリスクを念頭に提言したものだ。
JSTでは、日本の科学技術の脆弱性を示した例として、極限環境を想定して開発した先端ロボットが、原発事故で役に立たず外国製ロボットに頼らざる得なかったことを取り上げた。この原因を科学技術政策が研究開発に偏重して、成果を社会のために生かす視点が希薄だったと指摘する。また、専門家の間でも見解を分かれる微妙な問題を、科学技術者間の議論を経ず、マスコミで自説を展開したことも批判的に言及している。
一方で、日本は地震や台風など多くの自然災害に遭遇してきた。そのリスク対策に科学技術の果たすべき役割は大きいものの、政策責任者が十分に理解できず混乱を拡大させたとする。
これらの反省に基づいて、JSTは早急ならびに中期的に取り組むべき課題、科学技術コミュニティに対する提言に分けて示した。短期的課題は、社会の安全保障のための科学技術を、イノベーション政策の重要な柱に位置付けるとともに、改組される政府の科学技術イノベーション戦略本部においてリスクを俯瞰的に把握して、的確に対応する体制整備を求めた。
中期的課題としては、人材育成、拠点整備、研究機関の立ち上げのほか、今回の失敗を謙虚に学び、これを学問や文化に昇華させる柔軟な仕組み整備が必要とした。さらに科学技術に携わる個人や組織の倫理向上、専門家の知見を政策に助言する仕組みやルートの再構築も指摘。科学技術コミュニティには、論文至上主義の傾向が強い研究者の評価からリスク分析、危機や変災の防止など社会的活動の評価を重視すべきとした。
社会の安全・安心を実現するために科学技術が必要ということは国民の共通認識だが、震災・原発事故の対応や混乱は科学技術に対する不信を広げた。今回のJSTの提言は、科学技術コミュニティの真剣な反省であると評価したいが、一方でどこまで総意になっているのかいう点では疑問も残る。この提言が自己満足に陥ることなく、政策関係者やコミュニティ内部に対して粘り強く情報発信、議論することを求めたい。