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2012年05月16日 前へ 前へ次へ 次へ

後退は許されない原子力の学術研究

 関西電力大飯原発の再稼働問題は、政治的混乱ばかりか経済界も揺れている。再稼働の基準となるストレステストが不十分であるとして、関西の自治体を中心に慎重論が大勢を占めるなかで、原発依存の高い関電が今夏の電力不足を理由にした「再稼働ありきではないのか」と反発も広がっている。東日本大震災を契機に原発の安全神話は崩壊し、国民全体に原発に対する不信感が強まっているだけに、納得できるきちんとしたデータや説明が必要だろう。
 一方で、こうした脱原発の動きによる影響も拡大している。原子炉を用いた大学などの原子力研究はその一つ。この間、武蔵工業大学(現東京都市大学)や立教大学などは、コストや安全管理から研究炉の廃止を決め、学生が研究炉に触れる機会が減っている。この結果、大学で原子力に関わる専攻を志願する学生数が大きく減少し、研究開発の危機に立たされているという。当然、就職先も原子力離れが進んでいる。
 東京電力福島第1原発事故は、国の規制のあり方や事故対応が問題視されたのであり、決して日本の原子力技術が凋落したわけではなく、いぜんとして世界の最先端にある。学術研究についてはエネルギー政策とは切り離し、安心して研究できる環境を早期に整備すべきで、将来に備えた技術向上を続ける必要があろう。今後、原発の廃炉が決まった場合、長期にわたる作業が続くため、そこに安全管理などの技術の重要性は確実に高まる。もちろん原発の稼働を続けるにしても優秀な技術者の存在は不可欠だ。
 研究用原子炉は現在、原子炉の核特性の研究のほか、教育目的、放射線や中性子線の照射実験などに用いられている。研究炉では大量の中性子を取り出せるため、多くの研究に使われ、医療や産業にも貢献している。
 京都大学が大阪府熊取町に所有する原子炉実験炉では、ホウ素化合物を用いたがんの放射線治療で注目を集めている。2001年には再発した重症の頭頸部がん患者に照射を行い腫瘍を完全に縮小させることに成功し、世界に日本の技術水準の高さをアピールした。過熱化する脱原発の嵐によって停止に追い込まれることになれば、医療の発展を遅らせることになりかねず、世界の原子力研究にとっても損失になる。
 政府には今後のエネルギー政策を早急に取りまとめる一方で、日本が技術立国として生き残るため、原子力産業の長期的な戦略や教育システムについても指針を示すべきだろう。まずは冷静になって、原子力に対する不安を払拭するところから始めてもらいたい。


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