連載N03 日本のワクチン産業 新たな地平線
アステラス製薬は、ワクチン事業を将来のグローバル・カテゴリー・リーダー(GCL)候補として重点的な取り組みを開始している。これまでに開発パイプラインの確保、インフルエンザワクチンについてはUMNファーマとの提携、4月にはワクチン事業推進プロジェクトをワクチン事業推進室に衣替えさせるなど次々に拡充策を打ち出している。海外展開では、導入したDNAワクチンの欧米開発を進めるなど日本のワクチンメーカーの中では先行しているが、事業基盤整備は今後の課題になる。同社の土居正樹執行役員・ワクチン事業推進プロジェクト・リーダーは、欧米のワクチン大手との提携なども選択肢とみる。
◆ ◆ ◆
「ワクチン事業に100名規模」
現在の同社のワクチンソースは、化学及血清療法研究所(化血研)、電気化学工業の完全子会社であるデンカ生研(インフルエンザワクチンのみ)の2社。今期のワクチン売上高見込みは215億円で、うち8割を占めるインフルエンザワクチンでは国内トップシェアを有する。化血研はかって九州だけ単独販売、販促だったが、10年10月からはアステラスが販売、共同販促に変わった。
化血研は、麻疹・おたふくかぜ・風疹(MMR)三種混合ワクチンを米メルクから導入、07年2月に申請、不活化ポリオワクチン(IPV)とジフテリア・百日咳・破傷風(DPT)ワクチンとの4種混合ワクチンを今年1月に申請、狂犬病ウイルスワクチンをノバルティスから導入などパイプラインを増やしている。根絶された天然痘の生ワクチンに関しては同社のワクチンの安全性が高いとしてバイオテロを懸念する米国が補助金を拠出、米国で開発するなど、化血研自身のワクチンでの技術力が評価されている。
アステラスは、化血研との既存の協力関係をパイプライン確保のベースの一つとしつつも自社でのワクチン事業拡大策を打ち出してきた。事業推進には推進プロジェクトを母体に研究所も含めて約100名が関与する横断的組織体制を整備し、自社の開発パイプライン拡充では自社のみならず、イノベイティブなワクチンを前提に導入戦略も展開している。
◆ ◆ ◆
「先端ワクチン 欧米開発に」
これまでにアジュバントではレグイミューン、細胞培養インフルエンザワクチンではUMNファーマと提携、米バイカル社からはサイトメガロウイルス(CMVワクチン)を導入した。これまでのコンタクト相手は約100社・機関。ちなみにこのうち2〜3割が日本籍であり、国内の免疫研究のレベルの高さもうかがえるとしている。
CMVワクチン「トランスバックス」は、造血幹細胞移植、臓器移植という同社がGCLとする移植領域でのCMV感染予防に用いる。アステラスが世界での開発・商業化権を取得、造血幹細胞移植では欧米でフェーズ3を開始する予定で、臓器移植ではフェーズ2段階だ。同ワクチンは、既存のワクチンにない自然免疫も賦活してより強力な予防効果を示すDNAワクチンという次世代ワクチンとされる。
UMNファーマの細胞培養インフルエンザワクチンは、BEVS技術という昆虫細胞を用いた遺伝子組み換えによるたん白質製造技術により製造される。パンデミック対策で厚労省から補助を受けた他の4社と異なり製造現場にウイルスを持ち込まなので製造の安全性が高い、製造期間も短縮できるなど、細胞培養法ワクチンの次世代製造技術である。経産省の補助、銀行融資を使いUMNファーマとIHIの合弁であるUNIGENが岐阜県で着工した工場で原薬を製造、アピ社で製剤したワクチンをアステラスが販売する。アステラスは、厚労省の補助がないことについてはパンデミックにおける国へのコミットがない状況でありフレキシブルな対応ができると判断している。
◆ ◆ ◆
「海外での事業基盤構築」
CMVワクチンで海外開発という実績を積み上げ始めた同社だが、今後の課題は先端ワクチンのシーズ探索・導入の持続的拡大、そして海外の行政当局や公的機関との調整などワクチン事業に必要な基盤構築に移る。欧米ではワクチンは保険対象だったり、公的買い取りの仕組みが整備されている。基本的にワクチン接種が自己負担、しかも定期接種対象ワクチンが少ない日本の方が営業は複雑である。日本に比べれば海外での営業はシンプルとみられるが、それでも開発、販売、製造などの事業体制が整い行政との折衝のノウハウを有する欧米ワクチンメーカーとの協業にも関心を寄せる。ワクチンプラントは高価であり海外での製造拠点確保には相当の投資が必要である。
アステラスがワクチンのコラボレーション相手とも考える提携先のUMNファーマは、BEVS技術のライセンス契約をアジア5カ国にも広げ海外展開に乗り出している。さらにロタウイルス、ノロウイルスの混合ワクチンも導入するなど、アステラスとしてはUMNファーマとの協力関係拡大も検討の余地があろう。
BEVS技術のライセンス元であるプロテイン・サイエンシーズ・コーポレーション(PSC)は、米食品医薬品局(FDA)に同技術によるインフルエンザワクチンを申請中。今夏にも承認される可能性があるが、もし承認されれば次世代ワクチンとして評価されるだけに、大手ワクチンメーカーの関心を集めるのは必至とみられている。FDAの承認はUMNファーマへの評価をも高めると考えられるだけにアステラスとUMNファーマの提携関係の今後を注視したい。