先送りできない技術・技能伝承問題
製造業を中心に団塊世代が大量に退職して技術・技能伝承が進まず、ものづくり現場の弱体化に不安が広がった「2007年問題」。高年齢者雇用安定法が改正、雇用延長などで問題は先送りされてきたが、延長された団塊世代の完全リタイアによって「2012年問題」として、再び危機感が高まっている。この5年間に技術・技能伝承の難しさを多くの企業は感じてきた。熟練ポイントの「見える化」を通じた対策を講じないと、競争力低下や事業機会の喪失を引き起こすことになる。
富士通総研は製造業などの技術・技能の伝承に関するコンサルティングを受注してきた。企業は伝承の重要性を認識しているものの、「業務効率化が進み若手が勉強する時間を確保できない」「作業標準はあるが、安全標準的なものでノウハウ伝承には使えない」「小集団や時間外作業となり、人事制度のサポートがない」「熟練者が何を伝えていいのかわからない」「動画を撮影したが、活用されていない」などの悩みを抱え、スムーズに進んでいないという。
同社はこのような実態を踏まえて、技術・技能伝承の取り組みに2つの方向性を示す。技術伝承に関しては、技術移転や標準化など企業全体の技術レベル向上、自動化などによる定量化や形式知化を進めることで一定に可能となる。これに対して熟練作業者の固有ノウハウである「技」を伝承する技能伝承は、形式知化が難しく現場の模索が続いている。伝承を受ける非熟練者のモチベーションを高めるともに、伝承者の積極的な協力をとりつける会社のバックアップも不可欠という。
日本のものづくりは、現場競争力に支えられて維持してきたと言っても過言でない。しかし、家電などモジュール型製品は労働コストの安い新興国に生産が移っている。これまで競争力を維持してきた自動車など摺りあわせ型組立産業も、国内の高コスト構造と成長市場における生産という流れのなかで、海外生産比率を高めている。
化学など原材料、部品を手掛ける産業は、現場の技術開発力、ものづくりの蓄積を武器に国際競争力を維持しているが、並行してグローバルな事業展開を進める。その場合でも、国内のマザー工場における技術・技能伝承の重要性は高まっており、早急な対応が迫られている。
ものづくりを支えてきた中小企業の地盤沈下も深刻である。製造業だけでなく金融業や流通業などサービス産業でも技術・技能の伝承問題を抱えている。この解決は企業の努力だけでは限界があり、政府支援や地域固有の悩みを共有できる地方自治体なども協力すべきである。