相次ぐがんの個別化医療促す成果
肺がんの個別化医療が、病因遺伝子の相次ぐ発見によって一段と前進する。自治医科大学の間野博行教授らが2007年に発見した「EML4ALK」という融合遺伝子に続いて、国立がん研究センターや国立国際医療研究センターのチームが同じく融合遺伝子の「KIF5BRET」を発見した。こうした遺伝子の有無を調べることで効果的な薬剤を選択でき、がんの種類別死亡者数でトップの肺がんに対する薬物治療が大きく変わる見通しだ。
国立がん研究センターなどが発見した融合遺伝子は、肺がんの約半分を占める肺腺がんに2%程度の比率で生じているとされる。同センターのバイオバンクにある30例の肺腺がんを対象に塩基配列を調べ、バイオインフォマティクス(生命情報工学)解析で融合遺伝子を同定した。さらに解読例を含む319例で探索したところ、6例(1・9%)に見つかった。
RET遺伝子は1985年に名古屋大学医学部の高橋雅英教授らによって世界で初めて発見され、その後に多発性内分泌腫瘍などの原因遺伝子であることが分かった。新たに発見されたRET融合遺伝子は、輸送たん白質をコードするKIF5Bと結合しており、たん白質のチロシン残基をリン酸化する酵素の活性によって細胞をがん化させる。この融合遺伝子を持つ肺腺がんには、RET阻害作用のある薬剤が有効とされる。
一方、間野教授らが発見したEML4ALKという融合遺伝子を持つ肺腺がんの治療薬では、米国で昨年承認されたファイザーのALK阻害剤が日本で審査を受けており、近く承認が下りるとみられている。融合遺伝子陽性の患者に対して、非常に高い奏効率が臨床試験で確認されており、肺腺がん全体の5%前後で生じるEML4ALKの有無を検査で確認すれば、今後登場する新薬の投与判断に役立つ。
肺腺がんではアストラゼネカの「イレッサ」や中外製薬が国内販売している「タルセバ」が広く使われているが、これらも投与判定にEGFR遺伝子変異検査が用いられている。大腸がんや乳がんでも同様の検査が一部で行われており、薬剤投与判定の指標となる異常遺伝子などの同定がさらに進めば、ポストゲノムの本命とされる個別化医療の普及を後押しする。
抗がん剤は高額で、分子標的薬だと年間数百万円かかるのが一般的である。製薬企業は抗がん剤の開発に近年力を入れているが、試行錯誤的な投与は許されない時代がいずれくる。その動きは費用対効果の観点からさまざまな疾患に広がることが予想される。