科学の総合的知見でエコチル調査を
環境省が始めた「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」が1年を経過した。子どもの心身異常が増えている一因に、化学物質が影響しているのではないかという仮説に基づいて、全国で10万組の親子を対象に13年間の追跡(コホート)調査を行うもので、これまでに約2万3000組の参加が決まっている。
環境省は先ごろ、エコチル調査1周年記念シンポジウムを都内で開催した。エコチル調査の参加者を増やすことが目的だが、聴講した親の関心はアレルギー、発達障害に関する専門家の講演にあったようだ。
アレルギーに関しては、国立成育医療研究センターの大矢幸弘アレルギー科医長が講演した。アレルギー疾患のなかで喘息は30年前から増加しており、平成の時代になっても10年ごとに倍増している。原因としては先進国を中心にディーゼル車に影響が考えられるが、個人差も大きいという。もう一つの要因はタバコで、親が喫煙者だと発症者が増える傾向にある。ただ、気管支炎と喘息の基準などあいまいで、臨床医の立場から激しい喘息患者は減っていると指摘した。同様にアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎(花粉症)も増えているが、単純な親からの遺伝のメカニズムなどでは説明できないとした。
発達障害では、鳥取大学の小枝達也教授(鳥取大学附属小学校長)が講演。アレルギー同様に増加傾向にあるが、以前に比べて社会的関心の高まりから障害児の掘り起こしが進んだことのほか、診断基準が明確になっていない点も指摘した。原因として、社会的要因や家庭環境によるストレス、食事などが大きいと分析した。
この講演からは、エコチル調査で仮説としている胎児期から小児期にかけての化学物質曝露が子どもの健康に大きな影響を与えているとは言い難いだろう。ただ、影響は年齢によって変化することも想定されるため、長期追跡調査の意義がある。欧米でも同様な調査が進んでおり、国際的連携に基づいて化学物質による健康被害の未然防止に取り組むことは政府の役割である。またエコチル調査の目的に学際分野の研究を担う人材、研究成果を国民に分かりやすく伝えるサイエンスコミュニケーターの育成も大切である。
エコチル調査で大きな比率を占めるのは医学であり、環境省のみならずコアセンターの国立環境研究所にも医学の専門家は少ない。政府の予算執行は自由度が少ないこともあり、仮説に固執すると、子どもの健康問題に貢献という本来の使命を果たせないことになりかねないと肝に銘じるべきだ。