生物多様性戦略に必要な化学の役割
農林水産省による生物多様性戦略の見直し案が提示され、策定作業の最終段階を迎えている。今後5年程度で実施する多様性保全への取り組み支援の施策を推進するとももに、概ね10年間を見通した課題、施策の方向性を明確に示した。持続可能な農林水産業の維持に必要な取り組みであり、自然と人間がかかわり合いながら環境との調和のなかで、発展する将来の姿を描こうとしている。農地から森林、海洋・水産養殖と幅広く戦略を展開して具体的成果を生み出すには、イノベーションがキーワードとして大きな役割を果たすことに期待したい。
昨秋開かれた生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)とカルタヘナ議定書第5回締約国会議(MOP5)で、「新戦略計画・愛知目標(ポスト2010年目標)」や農業と生物多様性に関する決議などが採択された。今回の見直し案は今年1月から有識者による検討会の議論に基づいて作成された。特徴的なことは戦略に安全、農産物ブランド、共生、景観づくり、遺伝資源の保全などの表現が目立つことだ。のどかな里山をイメージさせる農業や林業、漁業・養殖業が持続的に管理され、環境の保全を整えていくことが重要とし、地域ごとに異なる生物多様性指標や評価方法の開発など進めるとしている。同案は今月末に意見募集を終え、速やかに策定準備に入る予定だ。
戦略の1つに有機農業の取り組みの条件整備が提示された。極論にしても、この推進は中途半端でなく電気、ガス、水道、自動車などを使用しない原始的農業まで遡る徹底したモデルの実践をしなければ、満足のいく生物多様性は確保できないことになる。
この整備には合成農薬・肥料の使用低減の記載がある。なぜ化学合成品だけが取り上げられるのかという疑問が残る。とくにわが国では各国と比べても厳しい農薬使用基準が定められ、適正に使用すれば安全であることが科学的に証明されている。合成農薬・肥料だけが生態系に悪影響を及ぼしたという根拠はどこにもみつかっていない。基準に従い、農業生産者が適正使用を順守する総合的病害虫・雑草管理(IPM)を積極的に推し進めることは、作物に甚大な被害をもたらす害虫や病害を防ぎ、むしろ循環を促し環境に優しい営農活動を実現する有用なツールとなり得るだろう。
まず重要なことは、農業生産者のアイデアや地域のつながり、知恵、技術をバランスよく組み合わせる能力を地域自ら発揮できるように引き出し、雰囲気づくりに国が熱意をもってあたることではないだろうか。これからの取り組みに期待したい。