【持続的成長と化学の力】(12)宇部興産 竹下道夫社長
山口県に主力拠点を置く宇部興産にも東日本大震災は有形無形の影響を与えた。震災を機にサプライチェーンや電力問題が新たに加わり、日本の製造業を取り巻く環境は不透明感がさらに増している。「震災、原発事故は未曾有の大打撃だが、安心・安全の国づくりに向けた改革の転機にすべきだ」と説く竹下道夫社長にこれからのとるべき針路を聞いた。
※現場力の強さ認識※
▼ 震災にともなう宇部興産の被害状況は。
「直接的な被害は限定的。グループ会社の宇部日東化成の福島工場などが被災したが、早期に復旧した。間接的なものはさまざまだ。大きかったものではメチルエチルケトン(MEK)の調達困難によるMEKオキシムの不可抗力(フォース・マジュール)宣言がある。ルネサスエレクトロニクスの主力工場が操業停止に陥ったことで機械事業にも影響が出た」
▼ 震災では日本の産業の持つ強みと弱みが明確になりました。
「日本のモノづくりと現場力の力強さをあらためて認識した。近年、それらが低下しているといわれていたが、非常時の対応力には目を見張るものがあった。サプライチェーンを再考する機会ともなり、供給責任とコストのバランスのうえで、自社の災害リスク低減や被災時の顧客対応、原料や資材の調達などを見直していく必要がある」
※競争環境の整備を※
▼ その一方、産業の空洞化が加速する懸念もあります。
「税制をはじめ震災前から事業環境は変貌しつつあり、円高や電力供給・コストが重なり日本で事業を行うハンデが広がっているのは確か。国際競争力の観点に立てば、原料・資材から最終消費財にいたるまでの流れのなかで、いかに競争できる環境を整えるかが肝心だ。日本の化学産業の場合、新しいものを生み出すポテンシャルの高さは変わらない。むしろ、その存在感や重要性は逆に増していくだろう。モノにはよるものの、組立産業のようなことにはならないとみている」
▼ エネルギー戦略も変わらざるを得ません。
「原発への依存抑制、省エネや再生可能エネルギーの拡充には誰も異論を挟まないだろう。定量的かつ時間軸を意識した議論とすべきだ。世界的にみても原発の普及が進むなか、日本は福島の経験を生かし安全性への取り組みに積極的にかかわらなければならない。再生可能エネルギーについては技術革新を導くような政策や枠組みづくりが求められているはずだ。単純な全量買い取りは再考の余地がある」
※選択と集中を徹底※
▼ これからの日本社会で宇部興産が果たすべき役割は。
「化学、セメント、機械、エネルギーの4分野を抱え、事業内容は異なるものの、共通するのはそのなかで選択と集中を徹底していくこと。カプロラクタムなどの汎用品では、むやみなシェア競争には走らない。評価していただける顧客にコスト競争力と品質の優位性を維持しながら供給責任を果たしていきたい。地域との共生という意味で"共存同栄"を経営理念として創業時に掲げたが、今ではあらゆるステークホルダーとのグローバルな共生という理念に進化している。社会に貢献する商品を生み続け、存在感のある日本の化学産業の一翼を担っていくのが責務だ」