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2011年10月21日 前へ 前へ次へ 次へ

メルク液晶事業の軌跡と新たな課題

 独メルクが中国で液晶材料の研究所の開設することを決めた。カールールドヴィック・クライ会長によれば、研究所の規模を順次拡大し、将来は液晶材料(ミクスチャー)の開発に取り組むことも視野に入れている。同社の液晶材料事業は日本の液晶産業の成長と歩みを共にしてきたといっても過言ではない。厚木事業所(神奈川)に研究開発センターを開設したのは1997年。翌年にはTFT向けミクスチャーの生産能力倍増に着手している。
 以来、一貫して厚木事業所を中核に液晶事業を拡大してきた。90年代後半以降のITブームに乗って生産能力を大きく拡大する一方、研究開発体制も充実させてきた。同社のスペシャリティケミカル事業のなかで最も高い成長を示し、00年上半期には前年同期に比べて売上高を倍増させた。
 06年には液晶材料などの設備能力拡大を目指して数千万ユーロの投資に踏み切った。バブル崩壊に続いて、少子高齢化の進展により成長が伸び悩む日本市場は、欧米化学企業にとって投資対象としての魅力が急激に薄れているなかで、メルクの大型投資は注目を引くものだった。この牽引役を果たしたのが液晶事業である。
 厚木事業所をミクスチャーを中心とする液晶事業の世界的拠点とする一方で、アジア需要の拡大に対応して台湾、韓国にも生産拠点を開設した。両国とも厚木からの輸出に始まり、販売量が一定規模に達した段階で現地生産に切り替えている。成長する中国の液晶材料需要に対して、現在は厚木ならびに台湾、韓国の拠点からの輸出で対応している。当面この方針に変更はないにしても、今回の液晶材料研究所の開設は、将来の現地生産を始めるステップと考えることができよう。
 メルクはこのほか、日本で開発した意匠性顔料を小名浜工場で量産、世界市場に輸出してきたが、東日本大震災で被災して操業中止を余儀なくされた。このため事業継続を重視して、ドイツに同製品の生産拠点を構築してリスクを分散することを決めている。
 同社は小名浜工場、厚木事業所を軸に日本で大きな事業成功を収めてきた。その成功度は欧米化学企業のなかでも群を抜くものだ。震災以降も日本における継続的事業拡大姿勢を変えていない。
 だが、素材産業にとって円高など「六重苦」とも「七重苦」とも言われる厳しい環境が続いている。この環境を改善できないと、リスク分散や新興市場への対応ということで日本離れは避けられない。政策責任者は肝に銘ずるべきだろう。


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