広げたい博士課程支援の出張講座
日本の成長戦略、世界への継続的貢献は"ものづくり"を抜きに実現することはありえない。これを支えるのは基礎研究まで遡及した技術開発力が不可欠だけに産業界と大学の連携の重要性が改めて問われている。文部科学省は「産学協働人財育成円卓会議」を7月に立ち上げたほか、日本化学工業協会の「化学人材育成プログラム」も始動した。これらに先行して実施した新化学技術推進協会(JACI)による東京工業大学向けの企業出張講座「化学産業ものづくり特論」は4年目を迎えた。博士課程の学生にとって企業の研究を知ることのできる絶好の機会で、キャリアパスに有用との評価も定着している。
JACIの前身である化学技術戦略推進機構(JCII)が企業出張講座を始めたのは2008年。文科省と経産省が進めている「グローバルCOEプログラム」の一翼を担う産学人材育成パートナーシップに協力した。今年度は先週、第1回講義を行い、来年1月末まで合計回を予定している。講師は元旭化成取締役の府川伊三郎福井工大教授のほか昭和電工、旭硝子、富士フイルム、味の素、東レ、日東電工などの化学企業で研究開発に携わっている中堅幹部が務める。
講義ごとに事前、事後のレポートの提出が義務付けられ、質問内容も採点の対象になる。さらに最終回では「社会は博士に何を期待しているのか」、「企業と大学の研究の類似点と相違点」などをテーマにグループ討議を行う。講座の担当教官である安藤慎治教授は「以前の大学では企業の研究に関する情報は皆無に近かった。大半の学生はアカデミアを志向したが、今や企業で研究を継続するケースが増えている。加えて化学物質・材料の高機能化や高性能化にともない産業界においてもポスドクの活躍できる機会が広がっている」と産学の交流、相互理解の重要性を強調する。
7日の府川氏よる講義では日本の化学産業の歴史、特徴、課題などに始まり、自ら担当したMMA事業の苦労話、CO2を原料とする非ホスゲン法PC技術の開発などに広がった。学生にとっても興味ある内容らしく、質問は石油化学産業の構造改革、化学の将来の方向性などに集まった。第3回からは進行中の研究開発を取り上げる。
グローバルCOEプログラムは11年度が最終年度になるが、JACIでは独自に来年度以降も企業出張講座を継続する方針である。日化協の化学人材育成プログラムなどを契機に産業界による化学系博士課程支援の雰囲気も高まっている。東工大以外でも同様な取り組みが広まることを期待したい