新薬評価に必要な費用対効果の視点
医療費の膨張をどう抑えるかは各国共通の課題であり、医薬品は政策的なターゲットになりやすい。日本ではジェネリック医薬品(後発薬)の使用促進が現下の課題で、現在23%程度の数量シェアを2012年度末までに30%超へと引き上げる目標を掲げている。欧米先進国では軒並み50%を超えており、日本でも後発薬の普及余地は大きい。しかしその先も考えると、新薬の評価にも切り込む必要があるだろう。
薬剤経済学という学問は、医薬品の費用対効果を分析し、経済効率を含めた合理性などを評価する。当該医薬品を医療保険の対象にするかどうかの判断に用いている国も多い。
英国では全国民をカバーする国家医療サービス(NHS)制度があるが、新しい医療技術や医薬品をNHSで提供するかどうかは、国立医療技術評価機構(NICE)が経済的な評価を行っている。提供が推奨されない場合の問題点も指摘され、制度の一部見直しが計画されているが、NICEのような組織を日本にも設けるべきとの意見も聞かれる。
日本では厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)において薬価専門部会が算定基準を作り、その基準に沿って薬価算定組織が算定を行う。新薬は類似薬効比較方式と、類似薬のない場合は原価計算方式で薬価が算定される。薬剤経済評価が直接的に行われることはない。
薬価算定組織が7月下旬にまとめた算定基準に関する意見書には、革新的な医薬品の薬価算定に際し、イノベーションの評価とともに費用対効果の観点を導入することへの検討が提起された。昨年4月に試行導入された新薬創出・適応外薬解消等促進加算は、一定要件を満たす特許期間中新薬の薬価引き下げを猶予してイノベーションを促すのが狙いだが、限りある医療財源の中でこの加算制度を恒久化していくには、経済学的な視点と仕組みが不可欠である。
薬剤経済学とは視点が異なるが、個別化医療は経済合理性にかなう。薬剤効果や副作用の高い患者を遺伝子検査などで見極めれば、無駄な投薬を避けることができる。ポストゲノム技術の代表格とされる個別化医療は普及段階に入りつつあり、こうした技術革新は医療費の適正化にも貢献する。
人生80年時代を迎え、年金・医療・介護の「高齢者3経費」は膨らむばかりである。社会保障と税の一体改革を具体化していくことは野田新政権の重要課題だが、消費税引き上げによる安定財源の確保だけでなく、薬剤経済学のような手法を用いて費用対効果をミクロの事例で評価することが求められる。