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2011年06月23日 前へ 前へ次へ 次へ

ハーバーとボッシュの栄光と悲劇

 キューリー夫人のノーベル化学賞受賞を記念して「世界化学年」が始まった。同じ100年前に実用化のめどが立ったのが、大気中の窒素を固定してアンモニアを合成するハーバー・ボッシュ法の開発。化学肥料の大量生産を可能にして世界を飢餓から救った。人類に貢献した20世紀の化学技術として、最上位に位置付けられる成果だろう▼「大気を変える錬金術ーハーバー、ボッシュと化学の世紀」(トーマス・ヘイガー著)で、2人のノーベル化学賞受賞者の栄光とともに、民族や政治に振り回された悲劇を知った▼基本発明を行ったハーバーはユダヤ人だが、ドイツ国民として生きる道を選択する。このことが学問を通じて結ばれた妻クララとの破綻の原因になる。さらに陸軍省大佐として化学兵器の開発まで指揮するが、ナチスの台頭で母国ドイツに裏切られる▼ハーバーの研究成果をエンジニアとして実用化したのは、BASFのボッシュ。同社のトップまで上り詰めるが、アンモニア設備の爆発事故が発生、自責を感じる。その後バイエル、ヘキストの三社で合併したIGファルベンの初代社長に就任するものの、ナチスによって引退に追い込まれる▼この本から、一世紀以上世界をリードしたドイツ化学の伝統の力にも触れることができる。簡単に追いつけない存在だ。


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