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2012年05月23日 前へ 前へ次へ 次へ

期待したい多様な大学院支援活動

 わが国化学産業の競争力向上に向けて、カギを握っているのは人材であることは関係者の共通認識である。とりわけ新たなイノベーションを創出する技術系人材の確保、育成が課題となるが、産業界からは大学院修了者を含めて質の低下が指摘されている。
 産業界では、化学産業を支える技術系人材の育成に情報発信を行うとともに、支援しようという動きが広がっている。経済産業省が2010年に策定した「化学ビジョン」では、博士課程学生への奨学金給付を含めた「化学人材育成プログラム」が動き出している。政府も大学院教育に危機感を強め、文部科学省は「産学協働人財育成円卓会議」を設置、イノベーション人材の養成と活躍の循環を模索する取り組みが始まっている。
 化学業界は大学とのパイプが比較的太く、これまでも産学共同研究の成功例は多い。一方でカリキュラムなど教育内容まで踏み込んで発言することは避けてきた。しかし、大学院生も含め、化学の基礎学力低下、自ら考えて工夫しながら研究する訓練不足、コミュニケーション能力やリーダーシップの欠如が指摘されている。
 また、大学は研究を重視した評価制度になりがちで、教育に関する評価が低いという制度面の改善も遅れている。
 新化学技術推進協会(JACI)は、大学院の学生を対象に企業出張講座を2008年から4年間実施してきた。これは文科省のグローバルCOEプログラムの一環だが11年度に終了した。JACIは引き続き、人材育成を戦略事業に位置付けて12年度から早稲田大学博士キャリアセンター(センター長・朝日透教授)と連携、5月からキャリアパスガイダンスを始めた。
 今回は修士課程に進学した生命医科学専攻のほか、化学、応用化学、生命化学専攻の学生約80人が対象。講師を務めるのは同大学を卒業した30-40歳代の企業の研究者が中心である。体験談を伝えるとともに、企業研究で求められるスキルや大学との違い、研究者としての心構えなどを語る。最後に当日の講義に基づく課題を提示、レポート提出を義務付ける。
 JACIの活動が契機になって、大学院時代の過ごし方に参考となれば意義がある。2年後に博士課程に進学するか、企業に就職するかの判断材料としても有用だろう。同様な取り組みは、他の大学への横展開も期待したい。しかし、民間の自主的活動では限界がある。教育の費用対効果は測りにくく、政府予算削減の対象になりがちだが、日本再生にとって人材育成は最優先課題であることを指摘しておきたい。


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