化学遺産認証・顕彰制度の意義
欧米の先端科学技術を導入して近代化を進めた先人たちは、血のにじむような努力を重ねた。その足跡をたどることは「過去を振り返ることで現在と未来を見据える」意義がある▼ここ数年、産業遺産ブームが起こり、歴史的建造物の保存も始まった。化学も明治初めにゼロから出発して、豊かな国民生活に貢献したが、化学遺産を保存する取り組みは遅れていた。設備が大きく、稼働中止はそのままスクラップされる宿命にある。自動車や家電のような最終製品は数多く保存され、展示も容易だが、原材料中心の化学は面白みに欠けがちである▼日本化学会が化学遺産の調査活動を開始したのは8年前。史料の調査・発掘、市民公開講座や史料展示を行ってきた。そして一昨年から化学遺産認定・顕彰制度を始め、これまで10件を選んだ。3回目の今年はアカデミア3件、産業関連4件を認定した。初めて、戦後工業化された塩ビ樹脂成形加工品とビニロンが対象となった▼学問、産業に共通する化学の特徴に幅の広さがある。業界団体の多さは、学会でも同様だ。日本化学会はわが国有数の規模を誇る学会だが、高分子や化学工学は独自に学会活動を行っている。さらに農芸化学、薬学などもあって求心力が働きにくい構造にある。今回の顕彰活動はその壁を乗り越えつつある。