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セルロースナノファイバー 産業化へオールジャパン《2》
「もっと早くやりたかった」。CNF研究の先達、矢野浩之京都大学教授の表情は口調とは裏腹に晴れやかだ。先月にNEDOプロジェクトの成果として、CNFを汎用樹脂に配合する夢の第一歩となる実証プラントが同大学の宇治キャンパスに完成した。2軸や4軸の押出機でパルプと樹脂を混練しながらセルロースをナノ化する世界初の一貫製造プロセスで、今後は量産化の検証に入る。
公的研究の端緒である近畿経済産業局の支援を受けた地域コンソーシアムから、10年余りの歳月が流れていた。
原料としてのCNFは、化学処理でシングルナノサイズに解繊するCNFと、物理的に解繊する、やや大きなナノサイズのCNFに大別される。ただパルプの単価は50円/キログラムだが、ナノ化処理がコストを2ケタ押し上げる。樹脂への展開を狙うなら炭素繊維やガラス繊維との競争にもさらされる。「ナノ化を簡便にできないか」。矢野教授は2005年から混練解繊に向け知恵を絞り続けた。
CNFの原料は紙パルプが主流。だが、矢野教授は木材チップまで遡る。木材の種類から検討し、熱可塑性樹脂の成形時にCNFが傷まないようリグニンを残すためだ。矢野教授が籍を置く生存圏研究所は木材物理が専門。前身の研究所も入れると55年存続し、3代目の矢野教授も楽器に使われるマツ科のドイツトウヒの音響作用を研究した。用途に応じたCNFの最適化には「木材物理から考えるべき」との信念がある。
*ライバル同士組む*
ライバル同士の日本製紙、王子ホールディングスの開発担当者も、この国プロでは宇治で共同生活を送っている。矢野教授は「パルプ化は製紙の技術が使える」と頼もしがる。問題はパルプ化したシートを押出機での混練時にほぐれやすくし、親水性のセルロースを疎水性の樹脂になじませ、耐熱性も高めること。関係者の協力を得ながら苦心の末、ある化学変性法を見いだした。この変性パルプと樹脂を混練した高濃度のCNFペレットを熱可塑性樹脂に混ぜて射出成形すれば、強度や弾性が向上した部材を作れる。「ようやくここまで来た」。
世界のプラスチックの生産量は約3億トン。「キロ単価1000円のCNFがその5%を補強材料として代替できれば、市場規模は13兆円になる」との青写真が現実味を帯びる。1000年を超える木造の寺社仏閣が街中にある京都への思いを込め、新プロセスは「京都プロセス」と名づけた。熱硬化性樹脂やゴムへの展開も視野に入っている。
15年に「森のノーベル賞」と呼ばれるマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞した東京大学の磯貝明教授。日本におけるCNF研究の第一人者だ。開発したTEMPO酸化触媒法は、3ナノメートルの最小単位のCNFを安定生産できる。磯貝教授は「TEMPO酸化のCNFは、先端材料向けのバイオ素材として物理解繊のCNFとすみ分ければ良い」と話す。特許の優先使用権を供与した日本製紙、第一工業製薬は世界に先駆けて商品化を実現させた。研究室から出て陣頭指揮を執る矢野教授とは対照的に「ライセンスを自由に使って産業化に役立てて」と後方支援に回る。役割は違えど双璧をなす学者の願いはCNFの産業化だ。
*基礎研究に投資を*
研究は他大学にも波及し、素材開発でリードする日本。だが海外の優秀な研究者が、CNFをテーマに最先端の研究分野に続々と入ってきている。矢野教授は「樹脂に混ぜる仕事は泥臭く、有名科学誌に投稿する論文は書けない。異業種の大手企業と研究者が連携して最先端の基礎研究に日本も力を入れないと」と警鐘を鳴らす。磯貝教授も「スウェーデンでは、王立工科大などの研究機関で行うCNFの基礎研究に多くの資本が投入されている。だから人材も集まる」と指摘する。学においても長期的な戦略が求められている。
(つづく)